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今週の専門コラム 「最強の武器はストーリー」 第20話 三島由紀夫と池上彰と林修に共通する伝達の秘技

「シモヤさん、最近注目している人物は誰ですか?」

先日、飲みに行った報道系週刊誌デスクから聞かれました。この週刊誌デスクとは20年に渡る付き合いで、まさに盟友関係。週刊誌報道に文字通り、命を賭けている人物です。

この週刊誌デスクとは定期的に飲みに行っているのですが、その度に聞かれるのが、この質問です。20年に渡って、必ず聞かれ続けています。なんでも、私の着目点や興味の持ち方は「テレビ製作者の様でもあり、それ以上に週刊誌記者のようでもある」のだとか。

この週刊誌デスクの問いかけは、「取材対象として」という前提があります。が、今回はあえてその前提を外して、答えました。「林修さん」と。

林修さんと答えた理由。それは、情報の伝え方にとても関心したからです。情報伝達の際の、音の使い方が極めて意識的で、巧みだからです。

林修さんは番組で何かを解説するとき、必ずといっていいほど、黒板を使います。企業であれば、何か書き示すときに使うのは、黒板ではなく、ホワイトボードです。ホワイトボードの方が見やすく、描きやすいので、当たり前です。あるいは、その場で書くということをせずに、テレビ番組の解説手段の定番、フリップを示すというやり方もあります。ですが、林修さんは黒板を頑なに使い続けるのです。

林修さんの情報伝達方法で関心したのは、その黒板の使い方です。林修さんにとっては、ホワイトボードでは絶対にダメなのです。それは、音を出せないからです。林修さんは黒板に説明を書き記す際、必ずチョークを叩きつける様に書きます。あえて叩きつける音を出すことで、聴衆の五感にあえて異なる刺激を与え、聴衆の関心が途切れないようにしているのです。これは長年、話すという、音の世界で勝負してきた人物ならではのテクニックです。

この林修さんのテクニックを見て思い出したのが、私が30年前、高校時代に読んだ、三島由紀夫の言葉です。ちょっと長いですが、引用します。

「月が上った。屋根のひさしが明るくなった。二人は散歩に出た」という文章を書くときに以前の私なら、そこへ様々な感覚的発見を散りばめることなしには書くことはできなかったでありましょう。月には形容がつき、ひさしの明るさには独特の色調の加減が加味されたでありましょう。しかしいまや私はそういうところに労力を惜しんで、むしろ自然な平坦な文章のところどころに結び目を作ることに熱中します。

三島由紀夫「文章読本」より

読者が物語を自然に読み進められるように、読者の意識をつなぎとめる結節点を作るということを書いています。文章が凝りすぎていると、読者はなかなか読み進められない。かといって、きれいな文章を淡々と記すだけでは、意識が途切れてしまうということでしょう。三島由紀夫はこうも記しています。

わざと小石をたくさん流れに放り込んで、文章をぎくしゃくさせて印象を強める手法もありますが、私はそれよりも小石をいろいろに置き換えて、流れのリズムを面白くすることに注意を払います。

林修さんのチョークを叩きつける音の使い方は、まさに三島が言うところの「結び目」であり、「リズム」を生み出しているものなのです。

この「結び目」と「リズム」を生み出す手法は、池上彰さんにも共通しています。池上彰さんの場合は音ではなく、図です。テレビ、なかでも池上さんが担当してきた「週刊こどもニュース」という子供向け番組の特性上、政治や経済の専門用語は使えません。わかりやすい、特徴的な図での伝達は必須なのです。これは「子供にもわかるように」という制約の中で生み出された手法です。

三島由紀夫、林修、池上彰。達人たちは文字、音、図と伝達手段は異なっても、共通して「結び目」と「リズム」を巧みに生み出し、活かしているのです。

ストーリーは「これ、面白いでしょ」とばかりに語りかけても、受け手の心には入ってきません。それでは街の歌自慢がカラオケで熱唱しているのと同じです。

結節点やリズムを意識して構成していくことで、より効果的に伝わるのです。ネットの普及により、情報が爆発的に増えるなか、受け手の意識をつなぎとめる手法の重要性は、三島由紀夫の時代よりも遥かに高まっています。

あなたは結び目やリズムまで意識して、自社のストーリーを伝えることができていますか?

※ 三島由紀夫の写真は、パブリックドメイン(著作権切れ)のものを使用しています。

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