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今週の専門コラム 「最強の武器はストーリー」 第19話 経営者は「おしゃれ」であるべきか

「シモヤさん、テレビに出るときは、おしゃれな服装じゃないとダメなんですか?」

先日、ある経営者の方から相談を受けました。結論から先に言ってしまいますと、全くそんな必要はありません。ビジネスパーソンとして、極めて普通の服装で大丈夫です。むしろ、おしゃれすぎない方が良いくらいです。

理由は3つあります。ひとつは服装に過度に気を使うことで、本来気をつけるべき他のことへの注意がおろそかになる危険があるからです。FacebookのザッカーバーグCEO、アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏。言うまでもなく、世界有数の名経営者です。そして、プレゼンテーションの名手でもあります。

ザッカーバーグCEO、スティーブ・ジョブズ氏 。この2人には共通点があります。それは記者会見で、毎回同じ服装をしているということです。

世界中が注目するハレの舞台に、なぜ毎回毎回、同じ服装で登場するのか。ザッカーバーグ氏やスティーブ・ジョブズ氏クラスであれば、専属のスタイリストをつけることすら、余裕なはずにも関わらず、です。

理由は「服装のために、貴重な意思決定の機会を使いたくない」から。ザッカーバーグ氏やジョブズ氏ほどの優秀な人物であっても、情報処理の能力や意思決定できる回数には限りがあります。その貴重な「1回」を、服装選びに費やしたくないということなのです。服装にかける費用や時間を、本来打ち込むべき仕事につぎ込みたいという考えなのです。

この2人の名経営者だけではありません。ヤフーを日本最大のインターネット企業に育て上げた故・井上雅晴社長はラルフローレンの店に行き、棚を指差し「ここからここまで、全部ね」と、ろくに見もせずに買ったという武勇伝(?)がヤフー社内で語られていました。

井上社長の跡を受けヤフーを再び成長軌道に乗せた、(下矢の直属の上司でもあった)宮坂社長も同様です。若い頃は服を買う時間も惜しんで働いていたので、スーツが破れても買い換える時間すらない。そこで、ホッチキスで止めて、しばらく着続けていたそうです。

それほどまでに、服にこだわりがないのです。ちなみに井上社長も宮坂社長も経営関連の数値や、サービスの作り込みに関しては、凄まじく細部に拘る方です。

理由の2つ目は、そもそも取材する側のテレビ局の製作者に「おしゃれ」な人間が極めて少ないということです。テレビ局というと、華やかな女子アナウンサーや女優のイメージがあるからか、制作する側も「華やかでおしゃれ」というイメージで見られがちです。

ところが実際は、おしゃれな人間はほとんどいません。製作者として、実績をあげている人ほど、服装に無頓着なことが多いくらいです。会社での泊まり込みが当たり前の職場で、おしゃれである必要が全くないわけです。自分も気にしていないので、取材相手の服装も大して気にしていないということです。新聞記者に至ってはテレビ局員以上に、服装へのこだわりはありません。

製作者だけではなく、視聴者も実はそれほど気にしていません。「LEON」や「Men’s Club」といった、売れている男性ファッション誌でも「発行」部数は5万部程度。「発行」なので、実際に買っている人の数は半分程度でしょう。「おしゃれに強い関心がある人」が、そもそも多くはないのです。ちなみに「週刊文春」は70万部近くに達します。

最後の理由は「おしゃれ」すぎることで、逆に印象が悪くなる危険すらあるということです。昔、武田鉄矢さんが主演で、驚異的視聴率を叩き出した「101回目のプロポーズ」というテレビドラマがありました。武田鉄矢さんは不器用だけど、純愛を貫く男性の役です。服装も垢抜けない感じで演じていました。これがもし、一流ブランドをきれいに着こなしていたとしたら、どうでしょうか。誠実というより、人並みに器用な男に見られていたはずです。なので、ドラマ製作者は間違ってもそのような演出はしません。

経営者が妙におしゃれな服装で何かを語っても、逆に胡散臭く、浮かれた印象で見られてしまう危険すらあります。誤解を受けやすい、IT、金融、不動産などの経営者は特に要注意です。

では、どのような服装であればいいのか。要は普通であれば、それで十分だということです。おしゃれが趣味であれば、気分転換に服を選ぶのは良いことでしょう。ですが、それはあくまで趣味として、です。自分のセンスにどうしても自信が持てなければ、店員にアドバイスを求めれば良いだけの話です。時間も費用もかかりません。

お年寄りから若者、男性から女性まで、幅広い、芸能人のような人気も必要な政治家。あるいは、美容やファッションなど、経営者自身が広告塔となる一部の業種を除けば、服装は普通で十分だということです。

マスコミで取材してきた人間として、断言します。服装、さらには滑舌の良し悪しといった話し方で、記事の論調が変わることは、絶対にありません。そんな上っ面に情熱を注ぐより、話の中身の方が100億倍は重要です。記者は話の中身や整合性を、驚くほど細部まで聞いているものです。

服装に意識が「強く」行くこと自体が、そもそも危険な兆候である可能性が高い。レストランにとって「料理も大事だが器も大事」です。ですが、シェフがメニュー開発や料理の鍛錬の時間を大幅に減らし、毎日器を選び、あげく自ら焼き物まで始めたり、食材の質を大きく下げてまで器を買い出したら、どうでしょう。本末転倒です。メディアを通じて発信するメッセージに自信がないが故に、自身の気持ちが弱さを補完できそうな「何か」に向いているのかもしれません。

あなたは本来注力すべきものに、ちゃんと意識を向けられていますか?

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