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今週の専門コラム 「最強の武器はストーリー」 第62話 安倍総理の新元号会見に見る、相手と時期の選び方

昨日、新元号「令和」が発表されました。シモヤも仕事の傍ら、オフィスのテレビで発表会見を見守っていました。

職業柄印象的だったのは、安倍総理の新元号に関する談話の記者会見でした。

「やはり安倍内閣はマスコミ対策が上手いな」

そう思ったのでした。

会見ではまず、安倍総理が談話を読み上げました。その後、内閣記者会との質疑に移ります。

最初に質問をするのは、幹事社です。「幹事社」は、記者クラブに属する社の意見調整をする役割を担っています。各社の多様な意見を集約して、総理官邸と記者会見の段取りなどを調整します。いわば町内会の会長のような役割です。

幹事社は2ヶ月ごとに持ち回りです。基本的には2ヶ月を2社で担当します。1社は新聞社・通信社という活字媒体の代表として、もう1社は映像媒体であるテレビの代表として、任に当たります。新聞、テレビで1社ずつ組むのは、活字メディアと映像メディアとでは、要望事項が微妙に異なるからです。

この2社は元々の資本系列に基づいて、組まれています。読売新聞と日本テレビ、毎日新聞とTBS、朝日新聞とテレビ朝日といった具合です。(「元々の」とあえて注釈を入れたのは、毎日新聞とTBS、産経新聞とフジテレビは現在では資本関係がかなり希薄になっているからです)

総理記者会見のような注目度の高い記者会見では、最初に幹事社が質問するのが「ルール」となっています。幹事社は全社が聞きたいであろう基本的な質問を、全社を代表して行うという建てつけです。

新元号「令和」の総理談話の会見でも、幹事社の産経新聞、フジテレビがそれぞれ質問をしていました。

私が「安倍内閣はマスコミ対策が上手いな」と思ったのは、幹事社の後の質問でした。

幹事社の質問が終わると、あとは各社が自由に挙手し、質問できる時間となります。今回の新元号「令和」の会見で、官邸広報室が指名したのは「ニコニコ動画」でした。

ニコニコ動画の質問に対して、安倍総理はSMAPの歌詞を引用するなどして、若い世代へのメッセージを伝えました。急にSMAPの歌詞など引用できるものではありません。明らかに「デキレース」でした。官邸とニコニコ動画の間で、質問の事前打ち合わせが出来ていたということです。

その次に官邸が指名したのは、共同通信でした。このときは、事前打ち合わせなしの勝負だったと思います。

私が「上手い」と思ったポイントは3つあります。

ひとつは質問者の選定です。幹事社はそれぞれが新聞とテレビの代表です。「新聞の代表」と書きましたが、基本的には読売や朝日などの全国紙の代表です。

次に指名したのはニコニコ動画。これは会見に参加している社の中では、ネットメディアの代表という位置付けでしょう。そして最後は共同通信。これは地方紙の代表という意味づけでしょう(通信社とは、主に地方紙に対してニュース配信を行う報道機関です。地方紙は東京の政治や経済、海外の情報など、予算の制約などから自前で十分に取材できません。通信社はそれらを担っています)。

つまり質問者が全国紙、テレビ、ネット、地方紙の代表と、実にバランスよく配されているのです。代表という意味合いを含む社を当てたので、特定のマスコミを優遇したという批判や邪推を呼びません。当てられなかった社が不満を抱くこともありません。

もうひとつ「上手い」と思ったのは、ニコニコ動画の質問の使い方です。官邸としては確実に2つの思惑があったはずです。ひとつは「新元号を担う若い世代へのメッセージを会見で打ち出したい」という攻めの思惑。もうひとつは「絶対に失言できない場」だという守りの思惑です。ニコニコ動画を質問者として指名することは、この2つの思惑を同時に満たせるものです。

若い世代の支持が多いネットメディアの質問に対し、若い世代へのメッセージを答える(実際にはニコニコの利用者はそれほど若い世代は多くありませんが)。ニコニコ動画であれば、事前に質問調整に応じてくれるという2つの側面です。新聞やテレビの記者であれば、ここまであからさまに「官邸に利用されている」印象を与える質問調整には、まず応じないでしょう。

ニコニコ動画を指名したことで、事前に内容がわからない質問は共同通信1社のみとなりました。幹事社の質問は直前に質問通告するからです。失言の危険も最小限に抑えることができています。

最後の「上手さ」は、会見後の取材対応です。日本テレビ、テレビ朝日、NHKの報道番組に立て続けに出演しています。新元号発表の日ですから、安部総理にとって厳しい質問は出づらいタイミングです。今は統一地方選挙の真っ最中。総理大臣ではなく自民党総裁としては、肯定的な扱いが期待できるメディアには出ておきたいところです。

さて、中小企業やベンチャー企業はこの官邸の「上手さ」から、何を学ぶべきでしょうか。それは「取材を受ける相手と時期を選ぶ」という姿勢です。

一旦取材を受ければ新聞はもちろんのこと、テレビでも報道であれ、情報番組であれ、バラエティであれ、「取材された側」が内容をコントロールすることは不可能です。どう伝えるかは、メディアの側に完全に委ねられます。どうしても内容をコントロールしたいのであれば、テレビショッピングのように放送枠を広告として買い切るしかありません。それは企業であれ、安部総理であれ、事情は同じです。

放送内容はコントロールできませんが、「取材される側」がコントロールできることがあります。それは取材を受ける相手と時期です。これは「取材を受ける側」が完全に自由にできます。相手が犯罪などの反社会的な行為を犯していない限り、マスコミは踏み込むことはできません。相手と時期を選ぶことで、内容を期待通りのものに近づけるのです。

政治家や有名企業など「マスコミ対策上手」な存在は確実に、取材を受ける相手とタイミングを選んでいます。

ただ闇雲に「メディアに出たい」と思うのではなく、自社の狙いに合わせた相手と時期を選ぶことが大切なのです。

写真の出典:総理官邸ホームページ

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