今週の専門コラム 「最強の武器はストーリー」 第65話 2倍の価格で売り1兆円を獲得できた、(広報PRの面からの)理由
私・シモヤは今年からWeWorkに専用スペースを構えました。これに伴い、本社の登記も移転しました。
「WeWorkと急に言われても、何のことやら」
そんな方が多いと思いますので、簡単にご紹介すると⋯。WeWorkはニューヨークに本社を置き、 全世界でワークスペースを提供している企業です。「シェアオフィス」と言われる業態です。「シェア(=共有)」するので、マンションを借りるよりも、シェアオフィスは安いのが通常です。
ところが、このWeWork。普通にマンションなどをオフィスとして借りるより、全然高い(苦笑)。一般的なシェアオフィスの、2倍近い価格でしょうか。
それだけではなく、ソフトバンクから1兆円近い出資まで、獲得しています。
このようなことは、普通のシェアオフィスでは絶対にありえません。
なぜ、2倍の価格で売り、1兆円の出資を獲得できたのか。それはWeWorkは自分たちのことを、他のシェアオフィスのような「場所貸し」だとはまったく言っていないからです。WeWorkのサイトには、このような紹介文があります。
世界に広がるクリエイターのグローバルネットワークのためのワークスペース、コミュニティ、サービスをお届けします。
なんだかカタカナだらけですが⋯。ともかく、自分たちのことを「シェアオフィス」とは、まったく言っていません。人をつなぐ「コミュニティ」だと言っています。
つまり、自分の価値を自分で定義して、自ら発信しているわけです。それを顧客も、投資家も、そしてメディアも受け入れた。自分の価値を「他人に言われるがまま」にしていないわけです。
自らのビジネスを、既存の「よくある」ビジネスの文脈で語らない。これは広報PRに成功している、多くの起業家に共通する点です。
自分の価値を自分で決め、自分では打ち出したからこそ、「その他大勢」扱いされなかったのです。
古くは、ソフトバンクの孫正義社長です。創業期のソフトバンクは、パソコンソフトの卸売業でした。ですが、マスコミのインタビューを受けるときなどは、自分たちのビジネスを「卸売業」として語ることは、決してありません。「情報革命の基盤づくり」という価値を自ら定義して、語ったのです。
もし、自分で定義しなければ、どうなっていたでしょうか。
同じ業界の人間、あるいはマスコミの記者などが、知らないうちに独自の価値を見出してくれて、彼らが好意で各所に広めてくれる⋯。そんな都合の良いことは、起こるはずもありません。
自分で口火を切らなければ、ありえないのです。ですから、WeWorkも自分で打ち出さなければ、類似企業の2倍の価格、1兆円の出資は、得られなかったでしょう。
しかも、これらの成果は、ほとんど実績を挙げていない段階だったにもかかわらず、です。
裏を返すと、実績のないスタートアップ企業、ベンチャー企業、そして起業家だからこそ、自らの価値を自ら定義しなくてはならないとも言えます。実績がない分だけ、何も言わなければ、すでに実績のある既存の大企業や古い産業の文脈で語られてしまうからです。
スタートアップ企業、ベンチャー企業、そして起業家こそ、他人にレッテルを貼られる前に、「言葉で自分を定義する」。WeWorkはこのことがいかに大切か、よく示している例なのです。
もちろん、何でも「言えばいい」などということはありません。私・シモヤが「オリンピックの新種目を自分でつくって、自分でも出場する」などと言っても、誰からも相手にされません。
実績なきスタートアップ企業、ベンチャー企業、そして起業家がこうした広報PR戦略を成功させるには、また別のポイントを抑える必要が出てきます。
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さて、WeWorkはかなりの注目を集めた後で、創業者の公私混同問題などで、株式市場や世間の評価を大きく下げてしまいました。とはいえ、広報PRの面から見ると、「自己定義」でスタートダッシュに成功した好例であることには変わりありません。
創業者にまつわるゴタゴタを経て、現在、WeWorkの舵取りは実質的にソフトバンクが握っています。ソフトバンクが経営に乗り出す以上、様々な意味で「なんとか」するはずです。
ということで、2020年は最低1年間、(興味本位もあり)WeWorkに腰を据えてみます。