今週の専門コラム 「最強の武器はストーリー」 第64話 「社長が部下の許可を取る」社風
かなり久々の、半年ぶりの更新となりました。この半年間、ありがたいことにかなりの広報PRのサポートの依頼をいただき、土日祝日関係なく、フル稼働となっています。「仕事があるうちが華」なので、今年ももう一踏ん張り、です。
さて久々に書こうと思ったのは、ちょっと興味深い記事を目にしたからです。
2019年12月6日の日刊スポーツの記事です。わたし、シモヤの古巣・テレビ東京の記事が出ています。要約すると、「講談社とテレビ東京などが共同で池袋に、ライブエンタテインメント施設をつくる。その発表記者会見でテレビ東京の社長が『WBSの大江麻里子キャスターを出すこともありうる』という趣旨の発言した」というものです。
シモヤが興味深かったのは、記事の最後の段落にあった、テレビ東京社長のこの一言です。
大江のことを言ったのは、勝手な思い付き。報道局の許可も全く得ていない。
テレビ局の雰囲気をよく表しているのが、最後にある「報道局の許可も全く得ていない」という言葉です。
報道局というのは、(私も長年籍を置いていましたが)報道番組の制作を担うテレビ東京の一事業部門に過ぎません。当然、社長の命令系統にあります。にもかかわらず、「許可を得ていない」と述べているのです。
普通の企業であれば、社長が部門の「許可を取る」など、まずありえません。社長が指示すれば、部門は(渋々か、自ら進んでかは別として)動きます。社長が「指示するか、しないか」、それだけです。
テレビ東京ではない、もうひとつのシモヤの古巣・ソフトバンクの孫社長の口から「部門の許可を取る」などとは、絶対に出ないでしょう。
「テレビ東京の社長が特に気弱な、いいひと」というわけではありません。これは、テレビなどマスコミの制作現場を肌で知っている人間からすると、全く違和感のない発言です。
社長といえど、番組制作現場の意向を最大限に尊重するという、いわば不文律がテレビ局などのマスコミにはあるからです。「ひとを魅きつける」企画は制作現場から生まれるものだからです。トップダウンで番組の編成方針や取材先が決まるなどというのは、よほどのことがないかぎり、ありえないのです。
「番組取材をテレビ局のエライ人に頼んだから、大丈夫」と得意げに話す方に会うことがあります。ですが、マスコミはこのように「制作現場至上主義」とも言える社風です。社長ですら、大きな社業に関連していても「頼む」のです。「テレビ局のエライ人に頼んだ」だけで、何ともならないのは明らかでしょう。
わたし自身、何度も上司などの「エライ人」から取材先の資料を手渡されたことがあります。ですが、その上司たちも「取材しろ」などとは絶対に言いません。
「こんな資料もらったから、一応、渡しておくわ」
そんな程度です。後日、確認すらしません。もちろん受け取る側も、上司であっても何の忖度もしません。「いいネタならやる、そうでなければやらない」。それだけです。
だからこそ、全国放送の番組に出ようと思うなら、自らがテレビ局の制作担当者が「いいネタ」と思う存在になるしかないのです。