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今週の専門コラム 「最強の武器はストーリー」 第58話 【番外編】「日産ゴーン会長逮捕」の報に見る、情報の流し方

オフィスでクライアントへの提案書を作っていたところ、「ゴーン会長逮捕へ」という衝撃的なニュースが聞こえてきました。このコラムを書いている時点(11月19日19時時点)で、情報の流れ方がまさに典型的なパターンだったので、「番外編」として書いてみたいと思います。

何が典型的かというと、政府関連から情報が流れる「時間」です。検察が明確な意図を持って、この時間を選んだのは確実です。検察にとっては、超大物経営者の逮捕という大金星。なので、できるだけ大々的にマスコミに報じられる時間を選びたいわけです。検察が情報を大々的に出したいメディアとは、全国紙の朝刊とNHKの7時のニュースです。これらのマスコミが政府や警察、(今回の)検察にとって、主戦場です。

第一報が流れたのは、17時過ぎ。全国紙と7時のニュースに最も効果的に出せる時間こそが、17時なのです。

仮に12時に流したとすると、新聞の夕刊に間に合ってしまいます。つまり主戦場の朝刊では夕刊に次ぐ第二報となるので、紙面での扱いは幾分小さくなります。17時であれば、民放の全国ニュースにも速報を入れられます。NHKの7時のニュースでも、トップニュースとして取り上げることができます。もちろん、その後の民放の夜のニュースには、日産側の記者会見まで入ることになります。

今回の場合、株式市場への影響も考慮します。市場が開いている15時までは、情報を出したくはない。

17時というのは、大々的に報じさせるための、ベストのタイミングなのです。

日産の会見時間が21時というのも、同様です。NHKの9時のニュースを狙ってきている。21時記者会見なので、NHKの9時のニュースでは、日産の記者会見が生中継されることになります。つまり、ゴーン会長後の経営陣の主張が編集されることなく、そのまま流されることになります。日産の会見が7時ではないのは、さすがに段取りが良すぎる印象を与えること。今回の情報の流れの主役が日産ではなく、検察だからでしょう。いずれにしても、日産にとって21時の会見はまさに都合が良い時間なのです。

時刻だけではなく、日にちも狙いすましていた感があります。なぜ、月曜なのかということです。月曜はいうまでもなく、平日の始まりとなる曜日です。火曜の朝刊で取り上げられた後も、水曜、木曜と、続報がドンドン報じられます。テレビニュースでも同様です。ところが、これが金曜だったらどうでしょうか。金曜夜のテレビニュースで報じられます。ところが翌日の土曜日の夜はニュース枠が平日と比べて極端に少なくなります。平日の始まりである月曜こそが、大々的に報じさせるために最適な曜日なのです。

月曜という曜日には、マスコミ向けの秘密保持の意味もあります。月曜の逮捕に向けて、検察内部では前日まで綿密な準備を重ねていたはずです。わずかな捜査の気配ですら、マスコミに掴まれたくはない。土日は、マスコミの司法担当記者の動きは平日と比べて極端に鈍くなります。

大々的に報じさせる。フライングによる報道を防ぐ。両方の意味から、月曜こそが最適なのです。

蛇足ながら、第一報を報じたのが朝日新聞というのも典型的なパターンです。今回のゴーン会長の逮捕の第一報は、検察による意図的なリークである可能性が極めて高い。第一報は数分後に追いつかれるネタであったとしても、マスコミ業界では「スクープ」扱いとなります。一般社会では、どうでもいい話ではあるのですが。

検察による「スクープ」のリークなので、普段から検察と最も関係の良いマスコミに渡してあげたい。経済ニュースであれば日経の独壇場です。情報の出元が株式市場関係者や日産であれば、第一報は日経であったでしょう。ですが、今回の情報流通はあくまで検察主導に見えます。朝日新聞は伝統的に司法担当記者が強い。マスコミと行政機関の関係性という意味でも、典型的に見えるのです。

マスコミ報道に影響を与えたいなら、時間を意識することは、実はかなり大事な要素なのです。

(追記)
その後、日産の会見は22時開始となりました。当初、21時開始と報じられていたことから、予定より1時間遅れてしまったようです。NHKの9時のニュースは間に合いませんでしたが、22時の報道ステーションで同様の効果を得ることができます。

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