今週の専門コラム 「最強の武器はストーリー」 第52話 創業直後から有名経済メディアに出る方法
「シモヤさん、当社の製品は画期的な性能で、有名人にも使ってもらっています。なので、もっと有名マスコミに出られる力があると思っています。私個人のマスコミ人脈もありますし」
創業3年程度のある製造業のベンチャー企業の経営者から、こんな話を伺いました。これは極めてよくある誤解です。
まず、画期的な性能を持っているかは、ほとんど関係ありません。「ほとんど」と書いたのは、よほどすごい性能でない限り、ということです。
競合他社と比べて、10分の1以下の価格。あるいは、10倍以上の性能を誇っているなどです。圧倒的な差でなければ、性能の高さだけで有名マスコミに出ることはできません。
理由はカンタンです。この世の中のありとあらゆる新製品が、自称「画期的」だからです。既存製品より幾分優れている程度で取り上げていては、日経新聞は毎日100ページ以上必要ですし、ワールドビジネスサテライトも毎日5時間は放送しなくてはなりません。
テレビショッピングの専門チャンネルを見ていれば、24時間ずっと「画期的な製品」ばかり見続けることができます。そして、どの「画期的な製品」も有名人ご愛用です。
これは性能だけではなく、ビジネスモデルでも同様です。実態はさておき、ほとんどすべてのベンチャー企業が、自分たちは「斬新な」なビジネスモデルなのだと訴えるからです。創業者の経歴も同様です。このあたりの理由は以前のコラムで詳しく書きました。
性能もビジネスモデルも経歴も関係ない。
では、「マスコミ業界の人脈」は有効なのでしょうか?
日経やテレビ東京といった有名経済メディアでは、中小・ベンチャー企業を人脈「だけ」で取り上げることはありません。
私、シモヤも「情報提供したい」という中小・ベンチャー企業やPR会社から、散々売り込みを受けてきました。毎日、凄まじい数に登ります。
「情報提供したい」という側は自社のアピールポイントを語りたい。ですが、売り込みを受ける側は「情報提供されたい」とは思っていません。「情報提供したい」側のアピールポイントが、情報を欲している側の記事掲載の判断ポイントと、ことごとくズレているからです。
売り込む側は「画期的な製品」や「斬新なビジネスモデル」がアピールポイントだと思っています。ですから、売り込みの際にはそうした話を延々と語ることになります。
ですが前述の通り、「画期的な製品」、「斬新なビジネスモデル」はよほどのものでない限り、メディアで取り上げる条件に直結しません。つまり「情報提供を受ける」側は、自分たちの仕事と関係しない話を、延々と聞かされる羽目になります。会社に泊まりこむほど忙しい日常のなかで、会うだけ時間の無駄なのです。
人脈というのも極めて怪しいものです。
そもそも名刺交換しただけ、あるいは2、3回会ってフェイスブックでつながった程度で、人脈などと言えるものでしょうか。せいぜい、知り合いという程度でしょう。
その程度の人間に、なにか特別な便宜をはかる義理はまったくありません。記事掲載どころか、仕事に繋がらない「画期的な製品」や「斬新なビジネスモデル」の話を聞かされるために、時間を費やす義理すらないのです。
では、中小・ベンチャー企業が創業期から有名経済メディアに出ることは、針の穴を通すが如く、難しいことなのでしょうか?
実は、全くそんなことはないのです。
「画期的な性能」、「斬新なビジネスモデル」、「ピカピカの創業者の経歴」、あるいは「マスコミ業界への人脈」。実は、どれも不要です。
本当に必要なのは、ある特定の型に沿った情報発信を創業者がしているか。その一点に尽きます。
「画期的な性能」、「斬新なビジネスモデル」、「ピカピカの創業者の経歴」、「マスコミ業界への人脈」が必要条件と考えている限り、中小・ベンチャー企業は無駄な努力を延々と繰り返すことになります。
経営資源に乏しい中小・ベンチャー企業は、無駄な努力を重ねる余裕はないはずです。最短距離で、特定の型に沿った情報発信を心がけてください。