今週の専門コラム 「最強の武器はストーリー」 第49話 業界「内」でしか評価されていない企業の共通点
「シモヤさん、うちは業界内では評価は高いのですが、業界を出ると全く理解されてなくて」
ITや製造業の経営者の方から、よく伺う相談です。自社の技術力やサポート力は高い。それは業界のプロたちには十分すぎるほど理解されている。しかし、プロではない顧客や就活学生にはどうも満足に伝わっていない。そんな悩みです。
何とか業界外の人にも理解してもらいたい。そのために、製品名を妙にやわらかいものにしたり、動画をつくってYouTubeに上げてみたりします。なかには、ゆるキャラのような自社のマスコットをつくったりもしています。
けれど、サイトへのアクセス数は一向に増えない。YouTubeの視聴数も100とか200程度で止まったまま。せっかく費用をかけてつくった動画も、見ているのは関係者くらいだったりします。
製品名を親しみやすいものにするのも、動画をつくるのも悪い施策ではありません。ですが、肝心な点を抑えなければ、せっかくの努力も無駄になってしまいます。
抑えるべき、肝心な点。それは、言葉です。業界の「外」に届く言葉で話しかけなければ、何を語っても、業界外にいる人には届かないのです。どんなに内容が素晴らしい海外映画でも、字幕がなければ、内容を理解してもらうことはできません。
業界「内」の会話であれば、特に何も気にせず話せば良いだけです。自分も相手も、話の理解の共通知識を持ち合わせているからです。ですが、業界「外」の人は、そんなものを持ち合わせていません。
他社との微妙な差異、高性能。どれほど詳しく言われても、すごいのかどうか。業界「外」の人に伝わるはずはありません。そもそも、業界「外」の人には、どうでもいいことだったりします。
業界「内」でしか評価されていない企業の共通点は、使っている言葉の問題だと書きました。その裏返しも、また成り立ちます。業界「内」で評価されていないのに、業界「外」で評価の高い企業の共通点もまた、言葉なのです。
業界「外」で評価の高い企業は、間違いなく言葉の使い方が上手い。「上手い」というのは、「かっこいい言葉を使う」という意味ではありません。業界「外」の人の関心をつかむ言葉の選び方。そして、業界「外」の人に伝わる言葉で伝え方が、上手いのです。
例えるなら、自分が住んでいる島と、相手の住んでいる島に、堅牢な橋をかける。その橋の建設方法が適切なのです。
業界「内」でしか通じない言葉で語ってしまっている企業は、橋をかけていないのです。
自分が住んでいる島の中では、共通言語をつかっているので、問題なく、話が通じます。ですが島を一歩出れば、自分たちの言葉は方言です。相手の島では通じません。
橋をかけておけば、日常的に相手の島との交流が生まれます。自ずと、双方の言葉も通じるようになります。
一般向けの動画をつくる、製品のネーミングをやわらかいものにする。それらは根本的な解決にはなりません。必要なのは、相手に伝わる言葉を選ぶこと。そのために、相手の住んでいる島に橋に向けて、堅牢な橋をかけることなのです。
あなたは気がつかないうちに、自分の島でしか通じない言葉で、相手の島の住人に話しかけていませんか?