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今週の専門コラム 「最強の武器はストーリー」 第44話 飛躍的成長の導火線に火をつける存在

「シモヤさん、カネって使えば使うほど、増えるということに気がつきました」

親の代から積み重なった借金は数十億円。その額、実に年商の数倍。そんな逆風下で事業を継ぎ、10年弱で売上を倍以上に伸ばして、親の代の借金も見事完済した、イケイケの若手敏腕3代目社長から聞いた言葉です。大規模な設備投資をすれば、その分、おカネが入ってくる。そういう趣旨でした。大規模な設備投資を誤って、経営危機に陥った企業は数多くあります。なので、「投資=成長」というほど単純でないのは、言うまでもありません。ですが、大胆な投資なくして、大きな成長が難しいのも、また事実。そして、その決断を下せるのは、社長しかいません。

設備投資だけではなく、実は、私の専門である企業の情報発信でも、これは同じことが言えます。

それは飛躍的成長につながるような情報発信の基盤構築は、経営者主導でなければできないということです。間違っても、従業員から上がってくる話ではありません。これは、情報発信を飛躍的成長に繋げた、すべての中小・ベンチャー企業に共通する要素です。

経営者主導でなければできないという最大の理由は、中小・ベンチャー企業の情報発信では、社長自身が前面に立つ必要があるからです。ソフトバンクも、楽天も、サイバーエージェントも、創業期に有名経済メディアに出るのは、社長だけです。社長の出方のコンセプト設定などを、社長以外ができるはずがありません。

実際、こうしたカリスマ経営者を取材して感じたのは、天才的なセルフ・プロデュースの能力です。自分をどう見せるかを、強く意識しています。そして、自分が考えていた見せ方と、私たちメディアの受け止め方が違うと感じると、すぐさま軌道修正をかけてきます。

楽天の三木谷社長が初めて日経新聞に掲載されたのは、創業からわずか2ヶ月あまりのときです。当然、まだ、売上もまともにない時期です。世間が注目するような、なにか画期的な特許を持っていたわけでもありません。世界で初めての業態に挑んだと言うわけでもありません。にもかかわらず、です。いかに、社長自らが主体となって、情報発信を積極的に仕掛けていたのかを示す好例です。これは、孫社長、藤田社長も同様です。

加えて、目の前の業務の改善ではなく、中長期の会社の行く末を本気で考えるのは、社長だけということも大きな理由です。それは社長しかできない仕事です。

さて、冒頭の社長は経営再建の過程で、もうひとつ興味深いことに気が付いたと言います。

「シモヤさん、いろんな投資のなかでも、一番効果があったのが社員教育です。社員教育に費用をかけて驚いたのは、社内の雰囲気が本当に一変しました」

社員研修で学んだ「知識」が、社員ひとりひとりに定着し、実際の現場で効果を発揮するにはかなりの時間がかかります。にも関わらず、なぜ、敏腕社長はその効果をすぐに、強く実感したのか。

私は経営者が本気で会社の成長を中長期で考えていること、何より社長が従業員を大切に思っているということ。その社長の想いが社内に浸透したことの方が、社員研修で学んだ「知識」よりも、はるかに大切だったと、私は考えます。

従業員が求めているのは、自分たちが大切にされているという実感です。世代や価値観の細分化が進み、人材の売り手市場の傾向がますます強まっているなか、「黙って、頑張っていれば、経営者の想いは伝わるはず」というようなものではありません。

経営者の想いと考えを、社外だけではなく、社内にも浸透させる。社外と社内の両面が伴って、飛躍的成長が実現します。前に例としてあげた、ソフトバンク、楽天、サイバーエージェントは、社外だけではなく、社内への情報発信についても、実に巧みです。そのための細かな仕組みをいくつも用意しています。決して有名経済マスコミに「出っ放し」ではありません。そのあとの措置がちゃんとあるのです。

経営者の想いと考えを社内にも伝え、浸透させる。その内部への発火点も、やはり社長自身しかできません。社長が伝えなくても、社内で勝手に広がるのは、社長の悪口くらいです。

情報発信の導火線に、社長自身が火をつける。それは決して、従業員にはできないことなのです。

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